「頼んだよ?ローラ。7時まで帰ってきちゃダメだよ」

ローラの手にした携帯から、柔らかに念を押す雅人の声が響く。

「7時ね。任せておいて。その代わり、準備のほうは頼んだからね」

「分ってるって!じゃあ、また後でね」

弾むような雅人の声に、笑みを漏らしてローラは電話を切った。

そして、先ほどまでいた場所へ戻る。

今、ローラが人待ち顔で立っているのは、デパートのエントランスホールだ。

淡いピンクのニットに白いスカートを合わせたローラの出で立ちは、その白い肌と
柔らかな金髪によく映えて、隅に立っていてもよく目立つ。

約束の時間は3時。

相手は律儀な人間だから、それを違えることはまず無いだろう。

ローラが腕時計に目をやると、あと数分で3時になろうとしているところだった。



「ローラ、待たせてしまったかな」

「おじさま!いいえ、私の方こそ無理言ってごめんなさい」

いつもながらのスーツ姿で現れた葉月に、ローラは飛び切りの笑顔で応えた。

「お仕事忙しいのに・・・お疲れでしょう?」

獣戦機隊の副長官、そして獣戦機の開発者である葉月には祝日といえど
こなさなければならない仕事を抱えているのだ。

しかし、今日はローラにデパートに付き合って欲しいと頼まれ、流石の葉月も
仕事をやりくりして来たのだった。

「それにしても、式部重工のクリスマスパーティーへ着ていくドレスを選ぶなら、
やはり私よりも結城たちに頼んだ方がよかったんじゃないかな」

最初にローラから話を聞かされたときと同様に困惑顔をする。

「他の皆は今日どうしても都合がつかなくて・・・ごめんなさい、やっぱり迷惑でした?」

すまなそうにローラが言うのを受けて「いやいや。一緒の家にいるというのにこのところ
ローラともゆっくり話も出来なかったしね。いい息抜きにさせてもらうよ。
もっともドレス選びなんて大役、私では役不足だろうがね」

葉月にしては珍しくおどけたような笑顔をローラに向けた。

「ごめんなさい、おじさま。久しぶりのお買い物だから、ついいろいろ見たくなってしまって・・・」

7時を少し過ぎ、帰りのタクシーのなかでローラは照れ笑いを葉月に向ける。

ドレスを選び終わっても、雅人へのクリスマスプレゼントはどれがいいか、とか、可愛いキッチンウエアが
あるとかで葉月はあらゆる売り場を引っ張りまわされるかたちとなってしまったのだった。

「たまにはいいんじゃないかな。私もいろいろな発見があって面白かったよ」

滅多にデパートなどには来ない葉月には物珍しく映った物もあったようで、キッチンウェアのコーナーなど
では時折「なるほど・・・こういうふうにに使用するのか・・・」などとその構造に科学者の片鱗(?)を覗かせていた。

タクシーから降りると、ローラが鍵を開けて「おじさま、どうぞ」と葉月を促した。

「ありがとう」そう言って玄関に足を踏み入れた瞬間、

「おかえりなさ〜〜〜い!」の声と共に暗い玄関に煌々と灯りがつけられた。

「式部!?」

驚く葉月に雅人は一気に捲くし立てる。「まあまあ、とにかくクツ脱いで上がってくださいよ!
あ、お邪魔してるのは僕達のほうですね。ささ、早く早く」

「あ、ああ。ローラ、これは一体?」

一体何の騒ぎかと目を丸くしている葉月はローラを振り返るが、「おじさま、みんなが待ってるわ」と言われ
リビングへ向うと、そこには残りの三人も揃っていて、ダイニングテーブルの上にはご馳走とワインが並べられていた。

「藤原、結城、司馬。君たちまで全員揃って、今日はどうしたんだね」

状況を今一飲み込めていない葉月はその場にいる全員の顔を見回した。

「今日は勤労感謝の日でしょ?働いてる人へ感謝する日っていうことで、皆で相談したんですよ」雅人が口を開いた。

「獣戦機隊一働いてる葉月博士に日頃の感謝の意を込めて」忍が続ける。

そして、沙羅も忍を見て言う。「そ〜そ。こんなヤツの面倒まで見てくれてる博士に感謝して」

その言葉を受けて「どういう意味だよ、沙羅」忍が突っかかるのを

「忍、いつまでもそうやって博士に気苦労をかけるなって」と亮が制する。

「それはともかく、こんな具合で博士には普段お世話をかけまくってるので、皆から感謝の気持ち
ということでささやかながらパーティーを企画しました」収集がつかなくなりそうになるのを雅人が強引にまとめる。

「さ、おじさま、座って」

全く予想もしていなかったことに言葉を失っている葉月をローラが促す。

「いや・・・なんといったら良いか・・・驚いたよ」

席に着いた葉月が少し照れ臭そうに言った。

ワインが満たされたグラスが各人に行き渡ると「じゃあ、感謝の意を込めて、博士に」雅人がグラスを高々と掲げる。

「―――乾杯!!」



〜END〜



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