――大丈夫か?
ふらついた沙羅の肩を咄嗟に抱き止めた。
――ほっといてよ!なんでもないわよ!
そう言って俺の手を振り解く。
しかし、どう見ても、かなりつらそうな様子だ。
作戦の途中とは言え、既に半日以上も足場の悪い山道を歩き続けている。
――まだ暫くかかるぜ?そんなんで、歩けるのか?
――なんでもないって言ってるだろ!?うっさいわねぇ!
沙羅は一層、表情を険しくする。
いつもの俺なら、ケンカ腰で捨て台詞のひとつでも吐いて、先に行っちまってるところだ。
だが――・・・、抱き止めたアイツの肩は想像以上に華奢で柔らかで頼りなくて、
このまま放っておくには忍びなかった。
――無理して倒れられたら、かえって迷惑だからな。
悪態をついて強引にアイツを背負った。
驚くほど簡単に持ち上がる。
――ちょっと、なにすんのさ!降ろしてよ、このスケベ!!
――ったく、何とでも言いやがれ。
背中で暴れる沙羅を無視して歩き始める。
しばらくして諦めたのか、大人しくなった沙羅が呟くように言った。
――ごめんね、忍・・・。
今は戦いの最中だ。
目の前の敵を倒すことだけに集中していればいい。
やるか、やられるか、二つに一つ。
他事を考えている暇は、無い筈だ。
だが――・・・、俺は『何か』を持て余し始めている。
それは、まるで皮膚の表面に現れる前の腫れ物みたいで、見た目は何ともないのに
触れると痛んでその存在を主張する、曖昧で、もどかしいものだ。
時には俺を苛立たせ、しかし、不思議と俺を癒しもするものだ。
そして、それを感じるとき、決まって思い返すことがある。
それは、抱き止めたアイツの華奢な肩と、背中で呟いたあの一言。
――ごめんね、忍・・・。
俺は、このもどかしさを抱えながら、今日も戦場へ飛び立っていく。
これが何なのかと考えている余裕はないし、また、考える必要もない。
どうせ、こいつはそのうち俺の心の表面に現れて、その存在を、その理由を、
容赦なく俺に突き付けてくるだろうから・・・。